幸福実現党政務調査会代理 小川佳世子
◆12月2日からマイナ保険証に一本化
今回は、幸福実現党NEWS168号「デメリットしかない マイナ保険証一本化は見直しを」の解説をいたします。
今年の12月2日をもって、従来の健康保険証の新規発行がなくなり、「健康保険証の利用登録をしたマイナンバーカード」通称「マイナ保険証」に一本化されます。
これについて、「マイナンバーカードはつくりたくないけど、健康保険証がなくなってしまうんだったら、カードをつくらないといけないのかな」という不安の声も寄せられています。
そこで、まずお伝えしたいことは、現在、お手元にある健康保険証は、有効期限が来るまで、最長1年間利用できます。
それ以降も、「資格確認書」という、従来の健康保険証と同じように使えるプラスチック製のカードが発行されますので、マイナ保険証を持っていないからといって、病院の受診ができなくなることはありませんので、ご安心いただきたいと思います。
むしろ、マイナ保険証を取得するためには、自治体の窓口に申請してマイナンバーカードを手に入れて、保険証の利用手続きを行わないといけないので、結構面倒です。
一方、現在のところ、資格確認書を取得するための手続きは特に必要ありません。
とはいえ、この資格確認書は、マイナ保険証を持っていない人が自ら申請して取得することが原則です。また当初、有効期限は1年ほどになる予定でした。
しかし、「それはつまり、マイナンバーカードの取得を義務化されるのと同じじゃないか」という反発が沸き起こり、政府は「マイナ保険証を持っていない人全員に、資格確認書をお送りします。有効期限は5年とします」と苦し紛れの策を出しました。
ただ、この政府の「申請しなくても資格確認書を送ります」という約束は、ハッキリとした法律の裏付けがあるわけではありません。
今後、「やはり、マイナ保険証を持っていない人は、1年ごとに申請して資格確認書を取得してください」などといって、マイナ保険証を持っていないと困るような状況がつくられる可能性もあります。
ですから、幸福実現党としては、現在の健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化することに、引き続き反対していきます。
そもそも、資格確認書は、従来の健康保険証と色くらいしか変わらないものになる見込みです。それなら、今の保険証をなくす必要はないはずです。
ちなみに、ご自宅に「資格情報のお知らせ」という紙製のシートが送られてきた方も多いのではないかと思います。当初はマイナ保険証を持っている人だけに送られる予定でしたが、全員に送られるようです。
これは、「資格確認書」とは違い、単独では保険診療が受けられません。あくまでもあなたの入っている健康保険や、保険者番号を確認するためのものです。
また、マイナ保険証を持っていても、ネットや機械の不具合で、マイナ保険証のカードリーダーが使えないというトラブルが報告されていますが、そんな時に、マイナ保険証と一緒に、「資格情報のお知らせ」という紙を提示すると、診察が受けられるとのことです。
このように現行の健康保険証を廃止して、無理やりマイナ保険証に一本化しようとしているため、非常に複雑になり、手間もお金もかかっています。
◆利用率14%の現実
さて、これだけ苦労して普及させようとしているマイナ保険証ですが、9月時点で利用率は14%未満で、利用する人がなかなか増えません。
それはなぜかというと、トラブルが絶えないからです。
全国保険医団体連合会が9月に公表した調査によると、約7割の医療機関がマイナ保険証の「トラブル・不具合があった」と回答しています。
トラブルの内容としては、カードが読み込めないとか、保険証の資格が確認できない、さらには他人の情報が紐づけられていたという深刻なものもありました。
マイナ保険証には、患者さんの入っている健康保険組合や保険者番号などは書かれていません。そのため、カードリーダーでデータを読み込めなければまったく使えないわけです。
トラブルがあった医療機関の約8割が、「健康保険証でトラブルを乗り切った」と答えており、やっぱり現在の健康保険証は便利なので残してほしいという声が絶えません。
その結果、マイナ保険証の利用率は、14%に満たないというわけです。
ちなみに昨年末段階は利用率4.29%だったのですが、マイナ保険証が利用できない医療機関は通報してください、一方で、利用率を上げた医療機関や薬局に対しては最大40万円の補助金を出しますよという、「アメとムチ」の政策でようやく9か月で14%まで利用率を引き上げました。
そもそも、推進側にいるはずの国家公務員がマイナ保険証を使っていないのです。
実は8月時点ではもっと低かったのです。国家公務員全体で利用率は5.47%、防衛省の職員は3.54%、外務省職員は4.5%という利用率でした。
マイナンバー関連の情報漏洩も、昨年度は分かっているだけで300件以上起きており、情報漏洩が心配だということもあるのではないかと思います。
そのように、みんなが使いたがらない欠陥システムを、税金を使って使わせようとするなど、民間企業ではありえないことをやっているわけです。
このような状態に私たちはもっと怒るべきではないでしょうか。
◆マイナ保険証のメリットは虚構
とはいっても、デメリットよりメリットが大きいならば推進する意味もあるかもしれません。ところが、政府がアピールしていたメリットはどうも怪しいのです。
例えば厚生労働省は「救急搬送時や旅行先ではじめて受診する病院でも、マイナ保険証があれば過去、病院を受診した時のデータや、どんな薬を飲んでいるかが分かるので安心です」などと言っています。
しかし、病院を受診した後1か月ほどたたないと、マイナ保険証を通じて情報を確認することはできないのです。ですから、お薬手帳を持ち歩く、もしくはスマホにお薬手帳アプリをダウンロードした方がよほど便利で安心ということです。
しかも、消防庁が救急活動のシミュレーション訓練において、本人の身元などを確認するのに、従来の保険証とマイナ保険証を使った場合を比べたところ、情報の読み取りに時間がかかり、マイナ保険証を使った方が救急車の出発が6分29秒も遅くなってしまったという、笑えない結果が出ました。
また、マイナ保険証のメリットとして、河野太郎・前デジタル担当大臣が「保険証の不正利用を防げます」と言っていました。
しかし、市町村国民健康保険において不正利用が確認されたのは5年間で50件とのことです。他にも隠れた不正使用があり、これがマイナ保険証で防げたとしても、それ以上にマイナカードを悪用した詐欺被害や情報漏洩事件などが起きたら本末転倒ではないでしょうか。
実際、偽造されたマイナンバーカードが身分証明書として使われ、知らないうちにスマホが乗っ取られ、ネットショッピングで高額の商品が勝手に購入された被害が出ています。
保険証の不正使用対策は、本人確認を徹底することで防げばいいだけで、これをもってマイナ保険証をゴリ押しする理由にはならないのではないでしょうか。
◆マイナカードをゴリ押ししたい理由とは?
では、政府がここまでマイナ保険証にこだわる理由は何でしょうか。
幸福実現党の大川隆法党総裁は、マイナンバー制度について「貯金が銀行にあるのは分かっているので、これを全部マイナンバーと連結してしまえば、各人がどれだけ持っているかが分かるようになります。番号だけ入れれば、全部が一目瞭然で分かるようになるので、『貯金に税金をかけていく』という次の手があるわけです」(『人の温もりの経済学』)と述べています。
実際、この指摘を裏付けるような動きを政府は着々と進めています。
例えば、「改正マイナンバー法」などによって、年金給付を受けている人に対して、書留郵便などで通知した上で、同意を得た場合、または、一定期間内に拒否するという回答がない場合は、年金の給付を受けている口座を政府が自動的に「公金受取口座」としてマイナンバーに紐づけられるようにしました。
なお、こちらはまだ準備を進めている最中とのことです。
政府は「口座を登録しても、預貯金の残高を知られることはありません」「公金受取口座は、政府から国民に給付をするときのみに利用しますから安心してください」などと説明しています。
しかし、財務省の財政制度審議会の議事録などを読むと、「マイナンバーと全銀行口座の紐づけを通じて、その人の収入や財産を把握し、負担能力に応じて税金や社会保険料を負担してもらうようにしましょう」という趣旨のことが堂々と話し合われています。
ただ、この預貯金への課税は、国民がマイナンバーカードを持たなくても可能です。
強引にマイナ保険証を普及させて、国民全員がカードを携帯しないといけないような社会を作ろうとしているのは、あらゆる個人情報と紐づけて、監視社会を完成させようとしているからではないでしょうか。
特にマイナ保険証で健康情報をつかむことができれば「ワクチン接種した人」「特定の病気にかかっていない人」だけ行政サービスを受けられるとか、保険料を下げるなどといった施策も可能になります。
今年5月には、マイナンバーカードの全機能をスマホに搭載できるようにする「改正マイナンバー法」が成立しました。
デジタル庁は、「本人確認が、さまざまな行政手続きだけでなく、民間サービスでも利用できる」と言っていますが、これによってより多くの個人情報が一元管理できる道が開けます。
他国でも共通番号の導入は試みられたことはありますが、国民からの反発やなりすまし被害が多発して、利用拡大に歯止めがかかっています。
当初、税と社会保障と災害対策のみに使うだけです、と言っていたマイナンバーの利用範囲を拡大し、事実上のカード取得の義務化まで進めている日本は、自由主義国の流れには逆行しているといえます。
むしろ日本は中国に近づいているのではないでしょうか。
中国では、身分証明書の携帯が義務付けられ、政府が国民の個人情報、年収や資産、借入状況、さらにはウェブでの行動履歴・購入履歴などを監視し、「信用スコア」をはじき出し、それによって行動や借金の制限がされるという監視システムが成立しています。
大川総裁は、全体主義体制の中国について触れながら「国民をマイナンバーで全部つかめたら、ナンバーだけで全部日本人をつかめるんだったら、あと、侵略するときはしやすいでしょうね」(『「小説 とっちめてやらなくちゃ」余話』)と述べています。
国民を一元管理できるマイナンバーのシステム自体が、中国の全体主義と極めて相性がいいということです。
◆今必要なのは「小さな政府」の考え方
現在、マイナンバーを推進している自民党は、社会保障の充実や子育て支援などの「大きな政府」を目指しています。
「大きな政府」を目指すと、どうしても国民の財産を監視し、取れるところから税金を取り、所得の再配分を強化するような仕組みが欲しくなります。
現在はマイナンバーやマイナ保険証に反対している、立憲民主党や共産党、れいわ新選組などの野党も、自民党以上に「大きな政府」を目指しています。
そもそも、マイナンバー制度導入の議論が加速したのは、年金保険料をおさめたにもかかわらず、それが正しく記録されていなかった「消えた年金」問題がきっかけでした。
そこで、立憲民主党の前身である民主党が2009年の衆院選公約に「所得把握を確実に行うため、税と社会保障制度共通の番号制度を導入する」との政策を盛り込み、政権を取った後、仕組みづくりに着手したのがマイナンバー制度のはじまりです。
自民党が創った制度に反対している政党も、何らかのかたちでマイナンバーに似たシステムをつくりたいという考え方は共通しているのです。
いくら「国民の利便性を高めるため」といっても、結局は国民の財産を把握し、取れるところから取って、持たざるものに配るというシステムにならざるを得ないのです。
つまり、「ゆりかごから墓場まで」国民の面倒を見る「大きな政府」を志向する限り、マイナンバーの問題は無くなりません。マイナンバーは「大きな政府」の象徴ともいえる仕組みなのです。
幸福実現党は、現在のところ日本で唯一、自助努力の精神をベースにした「小さな政府」を目指している政党です。
一人ひとりの経済的自由、政治的自由を守るためにも、マイナンバー制度の拡大を含む「政府の無駄な仕事」をやめ、「小さな政府」を目指して参ります。
執筆者:小川 佳世子
幸福実現党政務調査会長代理